シンガポール外務省の元事務次官であるビラハリ・カウシカン氏は、米国の対中関税政策について「大統領が変わっても継続される長期的な競争戦略の一部」だと語った。読売新聞のインタビューで、彼はこの政策が新興国に及ぼす影響や、東南アジア諸国の対応の重要性を強調した。
カウシカン氏は、トランプ元大統領が関税を「万能の道具」として用いようとしたことを指摘し、安全保障、移民、貿易赤字、製造業の国内回帰といった複数の目的を関税に集約させたと分析している。しかし彼は、このアプローチは長期的には持続不可能だと見ており、期限延長などの個別対応が今後も続く可能性があると述べた。
特に懸念されるのは、こうした関税政策が米国経済の減速やインフレを引き起こし、トランプ氏自身の支持層にも打撃を与える点だという。低・中所得国にとっては、輸出を通じた成長モデルが困難になり、日本や韓国、シンガポールが辿った「普通の成長経路」を新興国が踏襲できなくなる危険があると指摘した。これは、ベトナムやインドネシア、マレーシア、そして一部の中国の地域にとっても大きな障壁となり、結果として地政学的な不安定要因にもつながる可能性があると警鐘を鳴らす。
さらにカウシカン氏は、米中の戦略的競争が背景にある以上、関税はその一手段に過ぎないと述べ、バイデン政権であっても政策の根幹は変わらないと分析する。米国が製造業を国内に取り戻そうとしているのも、中国との長期的な戦略競争に備える一環だとし、大統領が誰になってもこの競争姿勢は変わらないとの見解を示した。
一方で、中国から東南アジアへの企業移転が進んでいる理由については、単なる関税回避や密輸ではなく、中国自体の生産コストの上昇や中国政府への懸念といった正当な動機も含まれていると指摘。これらを受け入れる東南アジア諸国には、複雑な対応が求められるという。
米国市場は依然として代替不可能な存在であり、各国はコストと利益のバランスを見極めながら対応していく必要があるとしつつ、東南アジア諸国が日本などからの投資を惹きつけるには、より魅力的な投資環境を整える責任があると強調した。
経済統合の必要性は認めながらも、成長鈍化の時代においては政治的困難も増すだろうと現実的な見方を示し、ASEAN諸国が互いに競争意識を持つことの難しさも指摘した。
最後に、同氏は「日本はASEANにとって最も重要なパートナーの一つだ」と強調し、「日本が東南アジアへの信頼を失わず、引き続き投資を続けてくれることを望んでいる」と締めくくった。














