アメリカのドナルド・トランプ大統領が世界各国に対して発動した新たな高関税政策が、特に東南アジア諸国に深刻な影響を及ぼしています。中国に次いで最も打撃を受けているのが、ベトナムやカンボジアといった国々です。
ベトナムとカンボジアにはそれぞれ46%と49%という非常に高い関税が課せられ、タイ(36%)、インドネシア(32%)、マレーシア(24%)と続きます。フィリピン(17%)やシンガポール(10%)も例外ではありません。輸出依存度の高いこの地域にとって、今回の関税措置は大きな経済的痛手です。特にベトナムではGDPの約30%、カンボジアでは25%が対米輸出によって支えられており、成長モデルそのものが揺らぎかねない状況です。
ベトナムの新たな共産党書記長トー・ラムの下で同国は2045年までに「知識と技術主導型の高所得経済」を目指しています。年率8%以上の成長を掲げ、その実現にはアメリカ市場の拡大が不可欠とされてきました。そのため、昨年にはアメリカとの関係を「包括的戦略的パートナーシップ」へと格上げしましたが、その計画にも暗雲が立ち込めています。
一方、タイは対米輸出の比率こそ低い(GDPの10%未満)ものの、近年は経済停滞が続いており、今回の関税がさらなる成長の足かせになる恐れがあります。政府は経済再生のために様々な政策を模索していますが、カジノ合法化の失敗など、明るい材料は乏しいのが現状です。
カンボジアに至っては、関税の影響が政治的な不安定要因にもなりかねません。与党が支配する一党体制の下、経済特権を通じて支配層の支持を維持してきた同国では、不動産バブルや土地収用への不満が高まっており、今回の関税は失業を増加させ、社会的緊張を一層高める可能性があります。特に75万人以上を雇用する縫製業が打撃を受ければ、貧困層への影響は計り知れません。
こうした状況の中、ベトナムやタイ、マレーシアといった国々はアメリカに対して交渉を申し入れています。ベトナムは全ての対米関税を撤廃する提案をし、タイも米国製品の輸入拡大を約束しました。しかし、トランプ政権は強硬姿勢を崩しておらず、経済顧問のピーター・ナヴァロは「ベトナムの提案は意味がない」と切り捨てています。
さらに、中国からの輸出を東南アジア経由で米国に再輸出する「トランスシップ」が疑われ、ベトナム製品の最大3分の1が実質的に中国製であるとの主張もされていますが、実際の比率は7〜16%程度に留まっているとの調査もあります。
皮肉なことに、これまでトランプ氏はベトナムやカンボジアで人気の高い政治家でした。ベトナムでは彼の強硬かつ取引重視の外交が評価され、カンボジアでは前首相フン・センがトランプ氏との関係を誇りに思っていたほどです。しかし、今や両国とも、厳しい関税政策の緩和を求めてホワイトハウスに頭を下げる立場になってしまいました。
東南アジアの急成長を支えてきた「輸出主導モデル」は、今まさに岐路に立たされています。この先、各国政府がどのようにして自国経済の舵取りを行っていくのか、その対応が注目されます。














