世界最大の二大経済大国である中国と米国の金融関係が大きく揺らいでいます。中国企業の香港上場ラッシュは、米国市場への依存を弱める中国政府の戦略を象徴しています。最近の注目は、バッテリー大手「寧徳時代(CATL)」が香港で46億ドル規模の新規株式公開(IPO)を行ったことです。このIPOは、米国国防総省が同社を中国軍と関係があると見なして監視リストに載せたことに対抗するもので、中国の米国市場離れを明確に示しました。
さらに、中国自動車大手の奇瑞汽車(Chery Automobile)も15億ドル規模の香港IPOを準備中です。実際、ウォール街に上場している中国企業25社のうち約3/4がすでに香港に重複上場しており、香港市場の時価総額の6割を占めています。これは、米国が中国企業の上場廃止をちらつかせる中、香港市場を“逃げ道”として確保しようとする動きです。最近も米財務長官が「全ての選択肢がテーブルの上にある」と発言し、緊張を一層高めています。
米国市場に上場する中国企業の時価総額は約1.1兆ドルにのぼりますが、52兆ドル規模の米市場全体からみると一部に過ぎません。それでも、こうした動きは金融面だけでなく、米中関係全体の不安定さを象徴しています。すでに一部の米国の投資家は、将来的な混乱を避けるため、香港に上場している同じ銘柄に資金を移す動きを見せています。しかし、多くの機関投資家は外国市場での取引を禁じる内部規則に縛られ、CATLのIPOには参加できませんでした。
香港市場を中国企業の受け皿とする動きは、北京政府の明確な意思に基づいています。2019年の大規模な民主化デモ以降、多くの海外資金や金融機関が香港から引き揚げましたが、中国政府は香港を人民元建て取引の拠点と位置付け、再生を目指しています。中国当局の担当者も、オフショア上場を検討する中国企業の8割が香港を第一候補にしていると公言。背景には、中国政府の規制強化や、アリババやディディといった巨大民間企業への統制強化の方針もあります。
実際に、アントグループのIPO中止(2020年)や、ディディの米国上場後の強制的な上場廃止(2021年)など、米中間の緊張が高まるたびに中国政府は米市場との距離を置くようになりました。2024年には米国の対中ベンチャー投資額が2018年の40億ドル超から16億ドルに急減。中国企業の米IPO件数も激減しており、2021年の121億ドル調達に比べ、今年1〜3月の中国企業のIPOはわずか21億ドルにとどまっています。
一方で、香港でのIPOは活況です。第1四半期のIPO件数は前年同期比で25%増加し、調達額も3倍近い約23億ドルに達しました。上位10件はいずれも中国企業が占めており、香港市場の重要性が高まっています。
もちろん、香港市場には米国市場に比べて課題も残ります。取引量は少なく、株価のボラティリティが高いほか、上場時の評価も低めです。特に小規模な中国企業には香港市場での二重上場が難しい場合も多いです。それでも、中国本土の個人投資家が香港株に直接投資できる制度も後押ししており、2020年末に比べて香港株を保有する中国本土投資家の比率は5%から12%に倍増。取引量の4分の1を占めるまでになりました。
最終的に、この動きの最大の受益者は中国政府です。中国政府は統制が及ばない米国市場の魅力を捨て去り、自らの意向に従う香港市場に力を集中させる構えです。過去5年間の動きを見ると、金融面の痛みを伴っても、政治的に“自国型”国際金融センターを育成するという北京の決意が浮き彫りになっています。中国企業と投資家にとっては、まだ不安定な要素が残るものの、中国政府にとっては「香港を通じた金融の独立」が最優先課題と言えるでしょう。
https://www.atlanticcouncil.org/blogs/econographics/sinographs/hong-kong-highlights-chinas-policy-of-decoupling-from-us-financial-markets/














