米国のドナルド・トランプ大統領が8月1日に発動した新たな輸入関税政策により、東南アジアの貿易環境は大きく揺さぶられている。しかし、今回の関税政策では明確な勝者は存在せず、むしろラオスとミャンマーが大きな打撃を受ける形となった。両国からの米国向け輸出品には40%という極めて高い関税が課され、世界のサプライチェーンの中で不利な立場に立たされている。
ブルネイは25%とやや低めの税率となったものの、依然として地域内では高水準だ。一方、シンガポールは従来どおり10%の関税が維持され、ASEANの中では最も低い水準である。しかし、同国は製造コストが高く、さらに主力輸出品である医薬品や半導体は他のASEAN諸国が得意とする分野ではないため、低関税を競争優位に結びつけにくいと指摘されている。
インドネシアは19%の関税に落ち着き、当初懸念された32%から大幅に抑えられたことで政府は成果とみなしている。しかし、マレーシア、タイ、フィリピン、カンボジアも同じ19%となったことで、輸出競争力に大きな差は生まれなかった。製造大国ベトナムも20%とわずかに高い水準だが、電子機器や繊維、靴といった主力産業の効率性が高いため、1%の差が貿易構造に大きな影響を与えることはないと専門家は分析する。
各国は交渉戦略も異なった。インドネシアは米国製のボーイング機50機の購入や農産物・エネルギーの大口輸入、さらには現地調達義務の緩和など幅広い譲歩で関税引き下げを勝ち取った。一方、マレーシアは一部の非関税障壁を緩和したものの、自動車やたばこ、アルコールへの関税撤廃や外資規制の大幅緩和には応じず、国内産業保護を優先した。結果として、米国市場向けの半導体や医薬品には関税免除が適用されることになった。
タイは1万品目以上の米国製品の輸入関税を撤廃し、エネルギーや農産物の輸入拡大を約束したほか、対米貿易黒字を5年以内に半減させる計画で交渉をまとめたが、国内農業を守るため一部の敏感品目では譲歩を避けた。
今回の一連の関税交渉は、ASEAN主要国がそれぞれ異なる経済特性と戦略で臨んだにもかかわらず、最終的にはほぼ横並びの税率に収束したことを示している。短期的には輸出構造や貿易フローを大きく変える要因にはならないが、各国が今後の産業戦略やサプライチェーン構築でどのように優位性を確保するかが焦点となる。世界的な貿易環境が揺れる中、ASEANにとっては中長期的な競争力強化が避けて通れない課題となりそうだ。














