トランプ氏がベトナムと電撃貿易合意、その裏にある「計算」とベトナムの大胆提案

2025年7月上旬、トランプ前大統領が自身のSNSに投稿した複数の通商相手国宛ての関税通達が、世界中の市場と外交筋に衝撃を与えました。その中でも最も注目されたのは、日本に対して8月1日から25%の輸入関税を課すという内容。しかし、対照的にベトナムは異例のスピードでアメリカと合意に達し、関税を大幅に軽減されるという結果となりました。

ベトナムがアメリカとの貿易合意を急いだ背景には、4月に発表された46%という高関税への危機感がありました。ベトナムのトップ・トー・ラム国家主席は、アメリカからの通達があったわずか2日後の4月4日にトランプ氏に直接電話をかけ、関税をゼロにすることを含む包括的な提案を行ったのです。このスピード感と大胆な申し出が、トランプ氏に強く響いたとされています。

トランプ氏はこの合意に関して、「アメリカ製品がベトナム市場で関税ゼロで販売されるようになる」「SUVや大型車両はベトナムの市場にも適しており、非常に魅力的だ」と語りました。また、ベトナム側も譲歩を示し、ボーイング社製の旅客機や液化天然ガス(LNG)、農産物の購入を拡大する意思を示しました。

さらに注目されたのは、ベトナム政府がトランプ氏の家族企業である「トランプ・オーガニゼーション」が手がける高級ゴルフリゾートの開発を迅速に認可した点です。プロジェクトの規模は15億ドルにのぼり、首都ハノイ近郊のフンイエン省に建設中です。これは偶然にもトー・ラム主席の地元であり、両国間の政治的な距離の近さを象徴しています。さらにホーチミン市には「トランプ・タワー」建設計画も持ち上がっており、経済と政治が絡み合った取引だったことは否めません。

また、アメリカが問題視してきた「中国からの違法な経由輸出」に対しても、ベトナムは取り締まりを強化。5万件以上の偽装原産国表示などの違反を摘発したと発表しています。これはトランプ政権の対中強硬路線に歩調を合わせ、米国の信頼を得る戦略の一環です。

ただし、現時点では合意内容の詳細は明かされておらず、「ゼロ関税」の対象品目や実施時期、違法経由輸出に対する40%の関税がいつどの条件で課されるのかも不透明です。今後の継続協議によって詰められるとみられています。

一方、トランプ氏が他国にも突きつけている関税政策に対して、市場は比較的落ち着いています。「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプは結局引き下がる)」という投資家の読みも背景にあるようです。この読み通りなら、今回の関税もまた交渉材料に過ぎず、現実には穏便に進む可能性があるという見方も根強いのです。

トランプ氏がベトナムとの合意に至った背景には、ビジネス感覚を生かしたベトナムの大胆な提案と、トランプ一族の利益にも直結する経済的利点が絡んでいたと言えるでしょう。そして何よりも、アジアでの勢力均衡を見据えた地政学的な思惑が、静かに、しかし確実に動いているのです。

https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/backstories/4140