アメリカのドナルド・トランプ大統領は、自国の貿易赤字是正と製造業の回帰を掲げ、90カ国以上に対する大規模な新関税を発動しました。この新関税政策は、交渉期限直前にトランプ氏自身がTruth Socialに投稿し、「数十億ドルがアメリカに流れ込んでいる」と自賛する中で発効されました。
今回の措置は、米国にとって「不公平」とされる国際貿易体制の是正を目指すトランプ氏の基本方針の一環で、車両や鉄鋼など特定産業への関税強化により、全体としての米国の平均関税率は過去1世紀で最も高い水準に達しています。すでに発表されていた関税案の一部は、市場混乱への配慮や交渉時間の確保のため一時的に保留されていましたが、最終的には8月7日を交渉期限とし、一気に発動されました。
影響を大きく受けるのは東南アジアの輸出依存国で、特に製造業が中心のラオスやミャンマーには40%の高関税が課されました。これにより、アジア諸国の市場には不安が広がるかと思われましたが、意外にも日本、香港、韓国、中国本土の株式市場は小幅ながら上昇。インドとオーストラリアではやや下落となったものの、大きな混乱は見られませんでした。
主な貿易相手国との対応も分かれています。英国、日本、韓国などは、4月に発表された高率関税を回避するための合意を米国と結びました。一方で、スイスは39%という高率関税を課されたものの合意に至らず、緊急会合を開く事態となっています。台湾に対しては20%の関税が発表されましたが、「一時的な措置」として米国との協議が続いています。
トランプ氏の関税攻勢は政治的な狙いも明確です。例えば、カナダに対しては麻薬の流入対策が不十分として関税率を25%から35%に引き上げましたが、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)により多くのカナダ製品は例外扱いとなっています。メキシコに対する関税強化も90日間の猶予が設けられ、交渉の余地が残されています。
加えて、トランプ氏はロシアによるウクライナ侵攻の早期終結を目指し、ロシアと貿易を続ける国々にも「二次関税」の可能性を示唆。インドには、ロシア産石油の輸入を止めない限り、8月27日から関税を50%に引き上げると通告しました。これに対しインド政府は「不当かつ理不尽」と反発し、自国の利益を守る姿勢を示しています。
さらに、米国外で生産された半導体に対しては100%の関税をかけると警告。これを受けてAppleは米国内で1000億ドルの新規投資を表明しました。主要半導体メーカーである台湾のTSMCや韓国のSKハイニックス、サムスンは、米国内への投資実績が評価され、関税の適用除外となる見通しです。
これらの一連の動きにより、米国の貿易戦略は世界経済に新たな緊張をもたらしつつも、今後の市場の安定性と各国の対応次第では、新たなルール形成のきっかけとなる可能性もあります。














