シンガポールで強まる金融ストレスの影

シンガポールをはじめアジア太平洋地域で、家計の「金融ストレス」が大きな圧力として浮上している。Cigna Healthcare が発表した「International Health Study 2025」によると、シンガポールの生活者は、身体・精神・金融面を健康の柱として重視しながらも、金融面の評価が最も低く、約4割が自分の財政状態を「普通」または「悪い」と答えた。物価高や生活費負担が続く中で、健康面や将来への備えと密接に絡み合う形で家計の不安が広がっている。

発表によれば、シンガポールの総合的な活力スコアは2025年に61.2と、前年の61.4からほぼ横ばい。全体の生活満足度で「非常に良い」「良い」と回答した人はわずかに増えたものの、家族・精神・身体の順に高評価となり、金融面は引き続き弱い分野として際立った。Cigna Healthcare シンガポール & オーストラリア代表のレイモンド・ン氏は、健康と活力はコミュニティの強さの基盤であると指摘し、「不確実性が続く中で、ストレス要因が人々の心身の健康に悪影響を与える可能性がある」と強調する。

地域全体で見ると、アジア太平洋の自己評価によるウェルビーイングは世界平均を大きく下回り、最高評価を付けた人は3割に届かない。世界では身体と精神が健康の最重要項目とされるのに対し、APAC では金融面が3番目に重視され、経済不安や生活コストの上昇が暮らしに深く影響していることが浮かび上がる。

また、金融面の脆弱さは医療アクセスにも影響を及ぼす。調査では、シンガポールの回答者の79%がストレスを感じていると答え、その主因は生活費と将来不安、そして個人の財務状況だ。特にストレスによる睡眠障害を訴える人は約半数に達し、APAC 全体平均を上回る。睡眠の質の低下は慢性疾患リスクの上昇にもつながるため、医療保険や企業の福利厚生を含む長期的な健康リスク管理への影響が懸念される。

精神面へのサポートは依然として活用が進んでいない。半数近くが「メンタル面の不調が生活に悪影響を与えた」と回答しながら、過去1年間にカウンセリングや治療を受けた人は1割にも満たない。必要性を感じていないという声が多いものの、支援の認知不足や心理的な壁が依然として残っている可能性が高く、保険会社や雇用主、医療機関が支援体制を広げる余地は大きい。

一方で、シンガポールでは運動習慣を良好と捉える人が4分の1を超え、体重管理にも運動を重視する傾向が強い。これは予防医療や健康増進プログラムの設計に活用できる要素であり、保険会社にとっては長期的な疾病リスクの低減につながる可能性がある。

医療分野でのAI活用に対する期待も高まりつつある。シンガポールでは約半数の人がAIが医療を改善すると期待し、3年以内の待ち時間短縮を見込んでいる。実際に、別の調査ではシンガポールの住民の83%が医療費や待ち時間の懸念から受診を先延ばしにした経験があるとされ、AI がこうしたアクセス改善の鍵を握る可能性がある。ただし、AIの普及による「人との接点の減少」を懸念する声も約半数あり、利便性の向上と人間的な信頼の維持をどう両立させるかが今後の課題となる。

金融ストレスと健康不安が複雑に絡むアジア太平洋において、シンガポールの状況はその縮図ともいえる。経済環境が不安定な中、企業や医療関係者、保険会社が連携し、金融・精神・身体という複合的なウェルビーイングの課題に取り組む姿勢が今後ますます求められるだろう。

https://www.insurancebusinessmag.com/asia/news/life-insurance/financial-stress-emerges-as-key-pressure-on-singapore-apac-559672.aspx