2026年1月20日から23日にかけて、世界経済界を代表するサステナビリティ団体であるWorld Business Council for Sustainable Development(WBCSD)は、アジア太平洋地域で初となる「Heads of Climate Base Camp」を香港で開催した。今回で4回目を迎える本プログラムは、香港での開催も初めてとなり、地域7カ国から15名の気候責任者およびチーフ・サステナビリティ・オフィサーが参加した。スポンサーはSwire Pacificが務め、企業における気候リーダーシップの実践的強化を目的とした集中的なセッションが展開された。
本プログラムは、単なる知識共有にとどまらず、具体的な成果創出を重視する設計が特徴だ。参加者は専門家からのインプットに加え、同じ立場で課題に向き合う仲間との率直な対話を通じて、自社の気候戦略を地域文脈に即して再構築する機会を得た。欧州や米国とは異なる市場構造や規制環境を持つアジアにおいて、グローバルなネットゼロ目標をどのように現実的な事業戦略へ落とし込むのか。その具体的アプローチが議論の中心となった。
企業内で「気候責任者」が担う役割は年々複雑化している。排出削減の技術的知見だけでなく、経営層や取締役会と対話し、全社的な意思決定に気候要素を組み込む戦略性も求められる。参加者からは、同じ地域で似た課題に直面するリーダー同士が率直に経験を共有できた点に大きな価値があったとの声が上がった。理論ではなく、実務に根ざした知見が交わされたことで、具体的な行動計画へと落とし込む道筋が明確になったという。
プログラムでは、自社特有の課題に向き合うファシリテーション形式のワーキングセッションも実施された。サステナビリティ部門と関連部門の能力強化、気候視点の経営意思決定への統合、部門横断的な連携の構築などが主要テーマとなり、各参加者はネットゼロ達成に向けた個別ロードマップを策定した。マイルストーン、必要な推進要因、関係者への働きかけなど、実行可能性を重視した内容がまとめられた。
科学的知見と基準策定の最前線からのインプットも、本プログラムの大きな柱となった。元IPCC議長であるHoesung Lee氏は、科学・政策・ビジネスの接点がどのように進化しているかを解説し、企業のリーダーシップがシステム変革に果たす役割の重要性を強調した。また、GHGプロトコル独立基準審議会議長のAlexander Bassen教授は、企業の温室効果ガス算定基準の今後と、それが経営判断に与える影響について洞察を提供した。これにより、参加者は科学と基準の動向を踏まえた戦略設計の視点を強化した。
さらに、実践的なアクションと市場メカニズム、適応とレジリエンス構築をテーマとするマスタークラスも実施され、企業が取り得る具体的な気候対応策への理解が深められた。現地視察として、香港最大の食品グレード対応プラスチックリサイクル施設であるNew Life Plasticsを訪問し、循環型経済の実例を体感したことも、理論と実装を結び付ける貴重な機会となった。加えて、Business Environment Council(BEC)との共催によるネットワーキングレセプションでは、香港の主要企業14社の代表者が集い、グローバルな枠組みとローカルな実践をつなぐ対話が行われた。
参加者からは、率直で実務に根ざした議論が大きな学びとなり、今後も継続的にコミュニティに関わりたいとの声が寄せられている。プログラム終了時には、多くの参加者が自らのリーダーとしての役割に対する明確さと自信を新たにし、複雑な社内外環境を乗り越えるためのネットワークを強化したと報告された。
今回のAPAC初開催を経て、WBCSDのHeads of Climate Base Campは、地域特性を踏まえた気候リーダー育成の場として着実に存在感を高めている。企業主導の気候アクションが問われる時代において、こうした実践的コミュニティの拡大は、アジア企業のネットゼロ移行を加速させる重要な推進力となるだろう。今後の開催動向と参加企業の取り組みが、地域全体の気候戦略にどのような波及効果をもたらすかが注目される。














