ベトナムで建設分野の法制度が大きく刷新される。7月1日に施行される新たな建設法は、これまで投資家や請負業者、プロジェクトオーナーを悩ませてきた法的な不透明さを解消し、契約の自由度を高めるとともに、行政手続きを簡素化する内容となっている。政府が進める規制緩和とプロジェクト迅速化の方針に沿った改革であり、国内外の建設関係者にとって重要な転換点となりそうだ。
今回の改正では、2014年制定の従来法に代わる新法が導入され、契約上の責任や違約金、損害賠償の扱いがより明確化された。これまで建設分野特有の規定でカバーされていない契約問題が生じた場合、商法と民法のどちらが適用されるのかが曖昧で、当事者間で解釈が分かれるケースがあった。新法では、このような場合には民法が適用されることを明確にし、違約金の上限や時効期間、遅延利息の算定方法といった重要論点についての不確実性を取り除いている。
さらに注目されるのが、あらかじめ定めた損害賠償額、いわゆるリキッド・ダメージ条項に類する規定を建設契約に盛り込めるようになった点だ。これにより、違反発生時の損害額算定を巡る紛争を減らすことが期待される。一方で、公共投資案件における違約金は引き続き上限が設けられており、事前定額賠償と制裁的な違約金とを区別する枠組みが採用された。国際的な契約慣行に近づく一方、条文の設計次第では違約金とみなされる可能性もあるため、慎重なドラフティングが求められる。
不可抗力やハードシップについても正式に位置づけられ、該当事由の判断は民法の規定に基づくことが明示された。対象事象が列挙されたことで契約当事者の裁量は一定程度制限されるものの、予見可能性は高まる。加えて、仲裁の役割が強化され、「国際的な紛争解決モデル」も建設契約で認められるようになった。これはディスピュート・アジュディケーション・ボード(DAB)やFIDIC型の紛争解決手法を想定したもので、大型プロジェクトで広く採用されている国際標準に歩み寄る内容といえる。外国企業が関与する契約では、ベトナム語以外の言語が優先され得ることも明確化され、越境案件の実務上の不安も軽減される。
行政面でも大きな改革が進む。これまで必要だった建設図面の国家審査は廃止され、プロジェクト準備から着工までの手続きは一本化される。詳細設計の責任は投資家に明確に帰属し、行政の関与は縮小される。また、投資形態に応じたプロジェクト分類の見直し、小規模住宅などへの許可免除の拡大、建設秩序や品質管理権限の地方人民委員会への分権化なども盛り込まれた。さらに、建設活動に関する国家データベースの創設により、透明性向上と事務負担軽減が図られる。
これら一連の改正は、ベトナムの建設市場をより国際基準に近づけると同時に、行政的な摩擦を減らし、プロジェクトの迅速な実行を後押しするものだ。インフラ需要が拡大する中、法的安定性と予見可能性の向上は、外国資本の呼び込みや官民連携事業の活性化にもつながる可能性がある。新法の実務運用がどこまで円滑に機能するかが、今後の建設セクターの競争力を左右することになりそうだ。














