シンガポール金融管理局(MAS)は2026年のインフレ見通しを引き上げる一方で、金融政策は据え置く判断を下した。2026年のコアインフレ率および総合インフレ率はいずれも1〜2%になると見込まれ、従来予想の0.5〜1.5%から上方修正された。MASは、サービス分野における人件費の上昇が物価を押し上げる要因になるとしつつも、生産性の改善がコスト上昇を一定程度抑制すると説明している。また、原油や食料品価格の下落見通しを背景に、輸入インフレは抑えられるとの見方を示した。
MASは現時点で、成長とインフレのリスクは上振れ方向に傾いていると指摘する。想定以上に堅調な経済成長が続けば、賃金上昇や消費者心理の改善を通じて、インフレ圧力が高まる可能性があるほか、地政学的要因による供給ショックが輸入コストを押し上げるリスクも挙げた。一方で、世界の金融市場が大きく調整した場合や、AI関連投資が減速した場合には、成長とインフレが想定より早く鈍化する可能性もあるとしている。
こうした状況を踏まえ、MASはシンガポールドル名目実効為替レート(S$NEER)の政策バンドについて、上昇ペース、中心水準、バンド幅のいずれも変更せず、現行政策を維持するとした。MASは、自らの政策スタンスについて「中期的な物価安定を守るために適切な位置にあり、外部環境の不確実性を注視しながら柔軟に対応できる」と強調している。
今回の決定は市場予想通りで、Reutersが実施した調査では、16人中15人のエコノミストが政策据え置きを予想していた。OCBCのエコノミストは、MASの声明について成長とインフレの上振れリスクを明確に示したとして、ややタカ派的なトーンだと分析している。また、Maybankのエコノミストも、年内の金融政策レビューでS$NEERの上昇ペースがわずかに強められる可能性があるとの見方を示した。
MASは、世界経済については関税引き上げの影響が遅れて表面化し、成長はやや鈍化すると見ているが、各国の財政・金融政策が下支えとなる可能性もあると指摘している。AI関連の設備投資サイクルは引き続き継続するとみられ、シンガポール経済にとっては追い風となる。2025年第4四半期の国内総生産は前期比年率換算で1.9%成長し、製造業とサービス業の好調が全体を押し上げた。
今後についてMASは、外部環境に不確実性は残るものの、AI需要に支えられた貿易関連分野や、安定した貸出と資本市場活動が見込まれる金融サービス分野が成長を支えると見ている。金利ではなく為替レートを通じて金融政策を運営するシンガポールにおいて、今回の判断は、インフレと成長のバランスを慎重に見極めながら正常化のタイミングを探る姿勢を示したものといえる。














