シンガポールをはじめとする世界各国で、人事(HR)機能が2026年に向けて大きな転換期を迎えようとしている。背景にあるのは、人工知能(AI)の本格的な普及と、働く人々の価値観や期待の変化だ。給与計算・人事ソリューション大手のADPによると、企業はHRの役割やスキル設計、AIの統治体制、給与業務のあり方そのものを見直し始めているという。
ADPが公表したガイドでは、AIが給与計算や人事業務に広く活用され始めている点が強調されている。特に「Potential of Payroll 2025」レポートでは、シンガポールの企業の51%が、給与業務の生産性向上においてAIが重要だと考えていることが示された。従来は手作業や確認作業に多くの時間を要していた給与計算分野において、AIは業務効率化の切り札として期待されている。
中でも注目されているのが、エージェント型AIの活用だ。ADPは、入社手続きの一部自動化、データ検証作業の効率化、マネージャー向けのリアルタイム分析情報の生成などを通じて、HRチームの負担を大きく軽減できると指摘する。大量のデータを扱う給与計算業務では、人的ミスの削減という点でもAIの効果は大きい。
一方で、AI活用が進むほど、ガバナンスの重要性も高まる。ADPは、HR部門とIT部門がより緊密に連携し、AIシステムが安全で高品質なデータに基づいて構築されているかを常に確認する必要があると強調している。特に、重要な判断が下される場面では、人間による最終的な監督や介入を欠かしてはならないとしている。
さらに、労働市場におけるスキルのミスマッチも深刻な課題として挙げられた。ADPによれば、シンガポールで「キャリアを前進させるために必要なスキルを持っている」と感じている労働者は23%にとどまっている。これを受け、多くの企業は人材の能力を可視化し、職務設計を見直し、テクノロジーを活用して個々のスキルと組織ニーズをより適切に結び付けようとしている。
給与の透明性も、今後の重要テーマだ。ADPの調査では、シンガポール企業の35%が、今後2〜3年で給与の透明性を高める計画を持っていることが明らかになった。従業員の意識変化に加え、規制当局からの要請が強まっていることも、この動きを後押ししている。
加えて、アジア地域で国境を越えたチーム運営が増える中、法令遵守の複雑さも増している。給与、データ利用、労働時間、記録管理をめぐる法制度は国ごとに異なり、企業にとって大きな負担となっている。ADPは、各国の規制差を尊重しつつ、労働者の権利を守るための共通基準を整備することが重要だと提言している。AIの進化とともに、HRは単なる管理部門から、経営戦略を支える中核機能へと変貌しつつあると言えそうだ。














