アメリカの関税政策が再び大きく揺れている。スイス拠点の貿易監視団体「Global Trade Alert(GTA)」によれば、ドナルド・トランプ大統領が世界一律15%への関税引き上げを表明したことで、英国や欧州連合(EU)、シンガポールといった米国の同盟国が実質的な関税負担増に直面する一方、ブラジルや中国、インドなどは負担が軽減される見通しだ。背景には、米最高裁が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置を違法とする6対3の判断を下したことがある。
これまでトランプ政権はIEEPAを根拠に各国へ関税を課してきたが、最高裁はその発動が不当だったと判断した。これを受け、政権は1974年通商法122条に基づき、まず10%の一律関税を導入し、その後15%へと引き上げた。法的根拠が変わったことで、各国が受ける影響にも差が生じている。
GTAの分析によると、英国の貿易加重平均関税率は2.1ポイント上昇し、EUは0.8ポイント上昇する。一方で、ブラジルは13.6ポイント、中国は7.1ポイント低下する見込みだ。これは、IEEPAに基づく追加的な個別制裁関税を多く受けていた国ほど、最高裁判断による「解放効果」が大きいことを意味する。実際、中国やメキシコ、カナダはオピオイド問題や国境管理を理由とする追加関税を課されていた。これらが無効化されたことで、結果的に負担が軽くなった形だ。
対照的に、いち早く米国と交渉し、10%や15%といった「上限付き」関税で合意していた国々は、今回の制度変更によって不利な立場に置かれたとの見方もある。日本は昨年、5500億ドル規模の対米投資を約束する代わりに関税を15%へ引き下げる合意を結んだが、最高裁判断後も投資計画は維持する方針だ。結果として「他国と同じ扱いを受けるために投資を支払った形だ」との指摘も出ている。韓国も同様に、既存の合意内容が損なわれないよう米国と協議を続ける姿勢を示している。
EUは「合意は合意だ」として、15%を超える関税引き上げはないとの明確化を求めている。ただし、IEEPAを前提に設計された二国間合意が、122条の一律適用原則の下でどこまで維持できるのかは不透明だ。たとえばEUとの合意には特定産品への例外措置も含まれていたが、122条は原則として非差別的な適用を求める。法的な再構築には時間と新たな手続きが必要になる可能性がある。
アジア各国は慎重姿勢を崩していない。中国は最高裁判断を精査中とし、米国に一方的関税の撤廃を求めた。インドは暫定合意に向けた訪米を延期。シンガポールも実効関税率が1.1ポイント上昇する見通しで、制度の詳細や還付手続きについて米国側に確認を求めている。
現在の通商環境を一言で表すなら「混乱」だ。トランプ大統領は15%と発信しているが、ホワイトハウスの公式資料ではなお10%と記載されている部分もある。IEEPAに基づく旧来の関税を前提に構築された二国間合意は、法的基盤を失い再調整を迫られている。エネルギー市場アナリストらも、実際の貿易への影響は依然として不確実だと指摘する。
今回の最高裁判断は、法の支配という観点では大きな節目だが、同時に国際貿易の力学を再び流動化させた。強硬姿勢を貫いた国が結果的に負担軽減を得る一方、早期に妥協した同盟国が相対的に不利となる構図は、今後の交渉戦略にも影響を与えかねない。米国が新たな法的枠組みの下でどのように関税政策を再設計するのか、その行方は世界経済の安定を左右する重要な焦点となっている。














