米中の覇権争いが中米パナマで新たな局面を迎えている。香港のCKハチソン・ホールディングスが、パナマ運河の両端に位置するバルボア港とクリストバル港の暫定運営を巡り、デンマークの海運大手マースクに対して法的措置を取る可能性を警告したことで、緊張は一段と高まった。パナマ当局がマースク傘下のAPMターミナルズに一時的な運営引き継ぎを打診したことが発端だが、その背後には米中の地政学的な綱引きが色濃く存在している。
問題の核心は、パナマ運河という世界物流の大動脈を誰が実質的にコントロールするのかという点にある。年間で米国向けコンテナ貨物の約4割が通過するとされるこの運河は、単なる商業インフラではなく、安全保障や外交戦略とも密接に結びつく存在だ。CKハチソンの子会社であるパナマ・ポーツ社は1997年から両港を運営し、2021年には25年間の契約更新も受けていた。しかし今年に入り、パナマ最高裁がこのコンセッション契約を「違憲」と判断。これに強く反発したCKハチソンは仲裁手続きに入るとともに、投資保護協定に基づく紛争通知をパナマ政府に送付し、国際的な法的措置も辞さない構えを見せている。
事態をさらに複雑にしているのが米中対立だ。ドナルド・トランプ米大統領がかねてから「中国がパナマ運河を運営している」と批判してきたこともあり、ワシントンは中国の影響力排除を優先課題としてきた。一方でCKハチソンは、ブラックロック主導のコンソーシアムに対し中国以外の港湾事業を売却する230億ドル規模の取引を進めていたが、中国側はこれを「米国への屈服」と批判し、事実上ブレーキをかけた。北京は今回のパナマ最高裁の判断を「論理的に欠陥があり、ばかげている」と強く非難し、パナマに対し政治的・経済的代償を警告。さらに国有企業に対してパナマでの新規事業協議を停止するよう指示し、航路変更も検討するよう求めたと報じられている。
マースク側は、あくまで地域および世界貿易への影響を最小限に抑えるための暫定措置だと説明し、法的紛争の当事者ではないとの立場を強調しているが、市場は敏感に反応し、同社株は一時3%超下落した。専門家の間では、CKハチソンの法的主張が最終的にどこまで通るかは不透明との見方が多い。コンセッション契約が有効とみなされるか、正式に終了したと判断されるかが争点となる見通しで、長期化は避けられないとの観測が広がる。
この対立は、ペルーのチャンカイ港をはじめとする中国の中南米インフラ投資にも波及しかねない。米国は主権や安全保障上の懸念を前面に出し、中国は前例を作らせないために抵抗を強める構図だ。関税問題やレアアース輸出規制、台湾問題などで既に緊張が高まる中、パナマ運河を巡る法廷闘争は米中関係をさらに冷え込ませる可能性がある。
最終的な決着がどうなるにせよ、今回の問題は、インフラ投資がもはや純粋な経済活動ではなく、国家戦略そのものになっている現実を浮き彫りにした。パナマという一国の司法判断が、世界の物流と大国間競争を揺さぶる。今後の仲裁や国際法廷での攻防、そしてワシントンと北京の出方が、グローバル貿易の安定に直結する局面が続きそうだ。














