NZ経済をシンガポールやアイルランドと比較する危うさ

ニュージーランドの政治家はしばしば、同国の経済モデルをシンガポールやアイルランドと比較して語る。しかし専門家は、こうした比較は単純化され過ぎており、むしろ誤解を招くと警鐘を鳴らしている。先日、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)がオークランドに総額75億ニュージーランドドル規模のクラウド拠点を開設した際、クリストファー・ラクソン首相は「投資やテクノロジーの分野でしばしば参考にする国」としてシンガポールとアイルランドの名を挙げた。しかし、両国の経済的背景や成功の要因はニュージーランドとは大きく異なっている。

シンガポールは政府主導の巨額投資と国有ファンドによる企業支配を軸に、空港や工業団地といったインフラ整備を通じて国際的な物流・金融ハブへと成長した。アイルランドは一方で、低税率やEU加盟国であることを武器にアマゾンやマイクロソフト、グーグルといったテック大手を呼び込み、「シリコンドック」と呼ばれる産業集積地を形成した。いずれも強力な国家戦略や地政学的条件があり、ニュージーランドが単純に模倣できるものではない。

実際、AWSはオークランドでの新拠点開設以前からニュージーランド市場で大きな利益を上げてきた。2021年には売上が9,370万ドルだったのに対し、翌年には3億6,410万ドルへと急増している。しかし、その多くの収益はアイルランド子会社を通じて計上され、国内に還元される税収は限定的だ。また、2021年に発表されたデータセンター建設計画は当初2024年稼働予定だったが、遅延や雇用規模の不透明さが続き、いまだ詳細が明らかにされていない。

このように、シンガポールやアイルランドとの比較はニュージーランドの実態を映してはいない。ニュージーランドは欧州やアジアのような国際的なハブではなく、地理的に孤立した中規模経済圏に過ぎない。AWSのオークランド拠点は国内データ通信の遅延を減らし一定の雇用を生む可能性があるものの、輸出型のデジタル産業や国際的競争力につながる保証は乏しい。

むしろ議論すべきは、主権や規制、そして海外大手企業による独占が国内のデジタル環境に与えるリスクである。シンガポールやアイルランドの道をたどるのではなく、ニュージーランド独自の戦略を練ることが求められている。クラウド投資をめぐる透明性や税制上の課題を直視し、持続的で自立したデジタル経済の方向性を描けるかが、今後の焦点となるだろう。

https://theconversation.com/politicians-love-comparing-nzs-economy-to-singapore-or-ireland-but-its-simplistic-and-misleading-264679