EU委員会、世界的な鉄鋼過剰生産に対抗する新保護策を提案

欧州委員会は2025年10月、EU鉄鋼業を世界的な過剰生産から守るための新たな包括的提案を発表した。今回の提案は「EU鉄鋼・金属行動計画(Steel and Metal Action Plan)」に基づくもので、鉄鋼産業の持続可能な将来を確保し、経済安全保障と競争力を守ることを目的としている。

新制度の骨子は、まず無関税輸入量の上限を年間1830万トンに設定し、2024年比で47%削減することだ。また、割当超過分に課される関税率を現行の25%から50%へ倍増させる。さらに、輸入鋼材の「溶解・鋳造(Melt and Pour)」情報を義務化し、原産地の追跡性を強化することで不正な迂回輸入を防止する。

ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は、「強固で脱炭素化された鉄鋼産業は、EUの競争力と経済安全保障、そして戦略的自立の柱である。世界的な過剰生産が私たちの産業を傷つけており、いま行動する必要がある」と強調した。彼女は加盟国と欧州議会に対し、迅速な法案承認を呼びかけている。

この新しい制度は、2026年6月に期限を迎える現行の鉄鋼セーフガード措置を置き換えるものとなる。EU委員会は、加盟国、労働者、業界団体など多方面からの要請を受け、より強力で恒久的な保護を導入する決断に至った。目標は、雇用を守ると同時に、産業の脱炭素投資を促進することにある。

欧州の鉄鋼産業は、世界の生産能力の急増という深刻な問題に直面している。現在、世界の鉄鋼生産能力はEUの年間消費量の5倍を超え、今後さらに拡大が見込まれる。この過剰供給と輸入増加、そして第三国市場の閉鎖的傾向が、EU内の企業を圧迫している。加えて、欧州内ではエネルギーコストや製造コストの上昇、内需の停滞といった構造的な課題も重なっている。

2007年以降、EUは約6500万トンの鉄鋼生産能力を失い、2024年の稼働率は67%にまで低下。9,000〜10万人の雇用が失われ、業界全体で記録的な損失を出したとされる。こうした厳しい現実を背景に、欧州委員会は産業の回復と保護を「時間との闘い」と位置づけている。

今回の措置は、世界貿易機関(WTO)のルールに完全に準拠する形で設計されている。EUは理事会の承認を得た後、関係する貿易相手国とGATT第28条の手続きを通じて交渉を開始し、国別の輸入枠配分を調整する予定だ。また、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインなどEEA協定に基づく国々からの輸出には関税や輸入枠を設けない方針だ。

さらに、戦争など特別な安全保障上の事情を抱える候補国、例えばウクライナなどの状況も考慮しつつ、EU全体としての効果を損なわない範囲で柔軟に対応するとしている。

提案は今後、欧州議会と理事会による通常立法手続きに付される。理事会では、交渉開始のための決定に加盟国の「特定多数決(qualified majority)」が必要となる。法案が採択されれば、現行のセーフガード終了後も途切れなくEU鉄鋼産業を保護する枠組みが維持されることになる。

鉄鋼は防衛・建設・自動車・再生可能エネルギーなど、EU経済の基盤を支える重要素材であり、約30万人の直接雇用と250万人の間接雇用を支えている。鉄鋼工場は多くの地域経済を支える存在でもあり、その安定は社会的・政治的にも大きな意味を持つ。欧州委員会は、国際的な協力を通じて過剰生産の根本原因に取り組み、同時に自国産業を守りながら脱炭素時代の競争力を高めていく構えだ。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2293