アメリカの最高裁がトランプ大統領の2025年関税の多くを違法と判断したことで、アジアはひと息つけるはずだった――。ところがその直後に打ち出された一律15%の新たな関税方針が、地域経済に再び不確実性を投げかけている。
今回の判断で、これまでの“解放の日”関税の一部は停止され、米税関も徴収を止めると発表した。だがトランプ氏はすぐさま、世界からの輸入品に対して15%の新関税を課す方針を表明。法的根拠は米通商法122条に基づく暫定措置で、最大約5か月間有効とされる。つまり、違法判断でいったん崩れたはずの関税体制は、形を変えて存続する可能性が高い。
インドネシアや台湾、日本などはここ数か月、ワシントンとの交渉を重ね、投資拡大や市場開放を約束する代わりに関税率の引き下げを取り付けてきた。例えば、台湾は対米投資を拡大することで15%に抑え、インドネシアも32%から19%へと引き下げを実現している。こうした合意は一定の成果ではあるが、従来型の包括的で法的拘束力の強い通商協定とは異なり、政治的判断で修正される余地を残す。企業にとっては「安心材料」というより、「とりあえずの着地点」に近い。
中国は4月に予定される首脳会談を前に、影響を精査していると表明した。米側は農産物や航空機の購入履行が主眼であり、対立の再燃を望まない姿勢を見せているが、構造的な緊張は消えていない。日本や韓国も様子見の構えだが、同盟国であっても一律関税の対象となる現実に、距離感の見直しを懸念する声が出ている。シンガポールも10%から15%へと引き上げられ、医薬品や電子機器、エネルギー分野の扱いをめぐり米当局と詰めの協議を進める。
一律15%は、完成品を大量に対米輸出するアジア経済にとって重い。価格転嫁が進めば米国内の消費者にも波及し、サプライチェーン全体のコストが上がる。半導体のように米国内で最終工程を行うケースは影響が読みづらいが、全体として「米国向けは高くなる」という前提で企業は戦略を組み直す必要がある。
では、アジアは次に何をすべきか。第一に、対米依存の再点検だ。輸出市場の多角化、域内貿易の強化、付加価値の高度化は、これまで以上に急務となる。第二に、合意内容の透明化と法的安定性の確保。政治的合意だけでは投資判断が揺らぐ。第三に、サプライチェーンの再設計だ。最終組立や高付加価値工程をどこに置くのか、関税の“持続性”を前提に再計算が必要になる。
今回の最高裁判断は、関税政策に法的ブレーキがかかり得ることを示した一方で、行政が別の手段で関税を維持し得る現実も浮き彫りにした。アジア各国にとっては、交渉の成果に安堵する局面ではない。むしろ、ルールの不確実性が常態化する時代にどう適応するかが問われている。短期的には15%という“新しい標準”への対応、そして中長期では米中を軸とした地政学的リスクを織り込んだ経済戦略の再構築。揺れ動く通商環境の中で、アジアの選択はこれまで以上に戦略的な意味を持つことになる。














