インド洋の島国セーシェルで、次期大統領パトリック・エルミニー氏が就任後、カタール資金による高級リゾート開発を停止する意向を表明した。開発地は「地球上でもっとも原始的で脆弱な生態系のひとつ」とされるアルダブラ環礁の玄関口、アサンプション島。環境活動家らが長く懸念を示してきた地域だ。
BBCのインタビューでエルミニー氏は、「この契約で我々が得る利益はごくわずかだ。現行の内容は受け入れられない」と語り、建設を一時停止して投資家側と再協議する考えを明らかにした。
問題のプロジェクトは、カタールの中東系投資会社「アセッツ・グループ」が進めているもので、アサンプション島に40棟の高級ヴィラを建設し、プライベートジェットが離着陸できる滑走路を拡張する計画だ。主島マヘ島からおよそ1,140キロ離れたこの小島は、これまでほとんど手つかずの自然が残る場所として知られてきた。
この開発計画は、先月行われた大統領選挙の争点にもなった。現職のウェーヴェル・ラムカラワン氏は「小国にとって投資は必要」と契約を擁護していたが、最終的にエルミニー氏が決選投票で52.7%を得て勝利。契約では、カタール側が7,000万年に及ぶ島のリース権を得る代わりに、わずか2,000万ドル(約30億円)の前払いを行うことになっていた。
エルミニー氏は、「すでに一部の建設は始まっているが、当初予定されていた37棟のシャレー建設は中止する。既に建てられたもの以上の拡張は認めない」と明言。自然環境の保全を最優先に据える姿勢を示した。
一方で、インタビューではセーシェル国内で深刻化する薬物依存問題にも触れた。2017年以来、正確な調査は行われていないものの、「国民の10人に1人がヘロインなどのハードドラッグ依存に苦しんでいる」とされる。エルミニー氏は「依存は国家の存続に関わる脅威だ」と語り、今後は密輸取締りに加え、需要そのものを減らす政策に注力する方針を打ち出した。
観光と環境のバランスをどう取るかは、セーシェルにとって長年の課題だ。豊かな自然が世界的に評価される一方で、経済の柱である観光業もまた自然に依存している。今回の決断は、短期的な経済利益よりも長期的な環境保全を優先する象徴的な一歩といえるだろう。エルミニー政権がどのように持続可能な成長モデルを描いていくのか、世界から注目が集まっている。














