日本がベトナムで計画されていた原子力発電所建設から撤退する方針を示し、ハノイの長期的な電力戦略に新たな不確実性が生まれている。日本の伊藤直樹駐ベトナム大使は、建設予定だった「ニントゥアン2」について、要求されている開発スケジュールが「日本側では実行できない」と述べ、撤退を明らかにした。急速に成長する産業需要の一方で、度重なる異常気象が電力供給を圧迫するベトナムにとって、今回の決定は痛手となり得る。
ベトナムはサムスンやアップルをはじめとする大手多国籍企業の製造拠点が集まる地域であり、近年、産業部門と中間層の需要増大による電力不足が深刻化している。干ばつや台風などの極端な気象現象も頻発し、既存の電力網への負荷は高まる一方だ。こうした背景の中、同国は再生可能エネルギーやガス火力を中心とした電源多様化を進めてきたが、規制や価格制度の不透明さからプロジェクトが遅れがちで、安定供給の確保は依然として課題となっている。
ニントゥアン2は2035年の稼働を目標とし、同容量の「ニントゥアン1」と並ぶ国家的プロジェクトとされてきた。しかし、両プロジェクトは2010年代初頭に着工したものの、2016年に安全性と予算面で懸念が生じ、政府が原子力計画全体を一時停止。その後、2023年に原子力開発を再開したため、ベトナムは日本とロシアに再び協力を要請したが、日本は期限までに十分な体制を整えることができないと判断し、撤退を決断した。
背景には、日本国内の事情もある。福島第一原発事故後、日本の原子力産業は熟練人材の採用や育成を急ぎつつ体制再構築に追われており、大規模海外プロジェクトへ即座に対応する余力が限られていたという指摘もある。また、ホンダを巻き込んだハノイ中心部でのバイク禁止計画をめぐり、日越間に微妙な温度差が生まれていることも関係者は示唆している。
一方で、ロシアが担当するニントゥアン1についてもまだ契約は成立していないとされ、ベトナム側の調整は遅れ気味だ。フランス、韓国、米国などの企業が関心を示しているものの、確実なパートナーは現時点で定まっていない。
日本は今回のプロジェクトからは撤退するものの、小型モジュール炉(SMR)など将来的な協力の可能性は引き続き探っているという。ベトナムは今後、急増する電力需要にどう応えるのか、そして複数の国との協力関係をどのように構築するのかが、大きな焦点となるだろう。今回の撤退は一つの後退に見えるが、同国の電力戦略に新たな選択肢と再構築の流れを生む契機となる可能性もある。














